糖尿病神経障害は治る?無視した先には死も?
糖尿病による高血糖が持続すると、血管や神経が侵害されます。このために起こるのが合併症と呼ばれ、糖尿病網膜症、糖尿病腎症、糖尿病神経障害が代表的です。
そのうち、多くの人に引き起こされる合併症が糖尿病神経障害です。糖尿病性神経障害ともいわれます。
糖尿病と診断されてから1年以内に、何らかの神経症状を感じた人は罹患患者の三分の一にもなります。
糖尿病に加えて高血圧や脂質異常などをかかえている人、喫煙や飲酒を続けている人は,糖尿病神経障害の合併症を引き起こす率が高くなることも挙げられています。
糖尿病神経障害の症状は徐々に悪化する傾向にあり、症状を我慢しているだけでは自然治癒はしませんので、しっかりした対処が必要となってきます。
■ソルビトールが原因
身体の中でなくてはならないぶどう糖。ぶどう糖は一部ソルビトールに変化し、果糖となって代謝されます。
しかし高血糖によって血管内に多くの糖分が蓄積されると処理しきれなくなり、細胞にたまってしまうことになります。このことが原因で起こる神経障害が二種類に分類されて存在します。
▪多発性神経障害(感覚器や運動に関わる障害)
手足末端のしびれ、冷感、神経痛、紙一枚が張り付いているような感覚鈍麻、こむらがえりなど
▪自律神経障害
発汗異常、立ちくらみ、脈以上、便秘、下痢、胆のう収縮能低下、膀胱に尿がたまっても尿意を感じない、インポテンツなど
■血管の閉塞が原因
高血糖が持続することで血管内に糖が蓄積し、それがかたまりとなって血管を固く狭窄を起こしていきます。
細い血管が早くにダメージを受けていき、栄養分を供給されなくなった一本の神経が単独に障害されていきます。障害された神経が支配している領域の部分に麻痺がおこってきます。
▪単一性神経障害
顔面神経麻痺、聴神経麻痺、外眼筋麻痺、四肢の神経障害など
糖尿病神経障害に気が付かない、放置してしまったら……
もし、糖尿病神経障害に気づかなかった…、もしそのまま放置してしまったら、危険な状況から逃れられなくなります。糖尿病神経障害の進行によってあらわとなる状況は3つあります。
■壊疽(えそ)
末梢の知覚も鈍く神経の麻痺のため外傷に気が付かなくなります。するとそこから細胞のダメージが始まり、やがては血液が行き渡らず壊死の状況をむかえます。
壊疽した部位は切断するしかありません。もし切断する前の段階に、傷口に細菌感染が生じてしまうと、そこから血液に菌が侵入し、敗血症という死と隣り合わせた状況になることもあります。
壊死を防ぐためには、血糖コントロールを良くするしかありません。HbA1cが7.0%以上の場合には、余分な血糖の一部は神経で処理され、その老廃物が神経細胞内にたまり、結果的に糖尿病神経障害を起こすことが知られています。ですから糖尿病神経障害を予防するために、HbA1cが7.0%に達しない場合は神経細胞内に老廃物をためない薬の内服が勧められます。また痛みについても保険適応の薬がありますので、掛り付けの医師にお聞きください。
■無痛性心筋虚血
心筋梗塞や狭心症など通常は胸の痛みや苦しさを症状とした発作がありますが、糖尿病神経障害の場合は、その自覚症状が乏しくなります。
自分では、さほど大きな症状ではなくても、病状自体は進行していることになります。こちらも気づかないで日々を送っていると突然死をむかえることもあります。
■無自覚低血糖
血糖値を下げる内服薬やインスリン注射などで治療を受けている場合、低血糖になったら自覚症状が現れます。
しかし、自律神経の働きが低下していると、低血糖の発汗や動悸、振戦などの症状が現れづらくなります。よって、低血糖状態であっても気が付かず昏睡状態に陥ってしまいます。
糖尿病神経障害の検査と治療法
■糖尿病神経障害の検査
糖尿病神経障害の検査で一般的に行われるものとしては、神経による刺激の伝達能力を確認するために膝やアキレス腱の反射をみる検査があります。
また、検査機を使って神経伝導速度を測定したり、また心電図をとったり、など、糖尿病神経障害が心配される可能性がある多くの項目について検査を受ける必要があります。
■糖尿病神経障害のおもな検査項目
①反射テスト
昔、脚気かどうかを確認するためによく行われた検査方法で糖尿病神経障害の検査としても行われます。ゴムのハンマーで椅子に腰掛けた状態でひざのお皿の下を軽く叩いて、足が跳ね上がるかどうかを調べる検査です。
②振動覚検査
音叉をくるぶしの上にのせて、振動の感じ方を調べる検査です。
③知覚検査
フィラメントという繊維で肌を軽くつついて、それを感じるかどうかを調べる検査です。
④神経伝導検査
刺激した後に神経に伝わる波の速さや大きさを確認する検査です。
⑤心拍変動検査
自律神経に障害があるかどうか、心電図を使い心拍の変動を確認する検査です。
■糖尿病神経障害の治療法
予防が一番ですが、もしなってしまった場合、どうしたらよいでしょうか?
まず大切なことは糖尿病神経障害の定期的な検査をしたうえで、その症状に合った治療法を選ぶことです。
▪基本は、日常的に血糖コントロールを行い、血糖値を安定させることですので、糖尿病そのものの治療を強化します。食事療法・運動療法・薬物療法などしっかりと自覚しながら行っていくことです。糖尿病神経障害が初期段階の場合では、この基礎治療だけで症状の緩和がなされる場合があります。
▪糖尿病神経障害を直接治療する方法に、アルドース還元酵素阻害薬の投与があります。
アルドースとは、果糖でもあるソルビトールの産生蓄積を抑制する作用があります。
▪対処療法として鎮痛薬の投与。もしも薬効が低い場合には抗けいれん薬の投与もあります。
糖尿病神経障害の予防と対策10のポイント
①毎日血糖値を測定
現在の血糖コントロール状況を把握することが異変の発見につながります。
②糖尿病の食事療法を厳格に
カロリー計算だけではなく、栄養素のバランスを考慮した食事を取りましょう。
③適度な運動
医師に止められるほどの重症でなければ、血行を良くする、代謝アップの効果があるので、激しすぎない適度な運動をすすめましょう。
④禁煙!
タバコのニコチンが原因でアドレナリンを分泌させます。それによって血管が収縮し血行不良となります。少しでも血流をアップさせたい末梢血管には不要です。
⑤アルコールは控えめに
習慣的な飲酒はビタミンB群を欠乏させ、しびれ感を増強させてしまうので控えましょう。
⑥皮膚をチェックしましょう
手足に傷や火傷、または水虫などは細胞の壊死のきっかけとなります。皮膚をこまめに観察し、小さな発見で大きな悪化を防ぎましょう。
⑦入浴する場合はお湯の温度に気を付ける
火傷は大敵です。知覚障害がすすむとお湯の熱さにも鈍感になるので、湯船に入る前に十分注意を払いましょう。
⑧手足のマッサージ
血行改善にはマッサージも効果的です。強くこすると逆に傷をつくってしまうことがあるので注意してください。やさしいマッサージを行い、血行の促進を図りましょう。
⑨自律神経の安定を図る
自律神経に障害を来たしている場合は、しっかりとした休養や睡眠が必要です。うつ病対策にもなりますので、気分のリフレッシュを心がけましょう。
⑩病院受診
いつもよりも症状が悪化したり、何か変だと感じたときには、自己判断や放置などしないですぐに病院受診しましょう。
https://blue-circle.jp/articles/262
糖尿病腎症は最終的には命にかかわります。高血糖と腎臓について知ることで高血糖の恐ろしさが理解できるはずです。糖尿病腎症、神経障害、網膜症という三大合併症の一つである糖尿病腎症の病態から症状までを理解して、腎機能の衰えを阻止しましょう