頑張る栄養くん!~ビオチン編~
ビオチンは体内の酵素を活性化し、たんぱく質、脂質、炭水化物の材料であるアミノ酸、脂肪酸、糖の合成や、エネルギー産生などを助けます。名前からはわかりにくいですが、ビタミンB1、B2などと同じ、「ビタミンB群」チームの一員です。水に溶けやすく、熱によって壊れやすい性質があります。
腸内細菌によっても一部合成されるため、通常は不足する心配はありません。しかし不足すると肌荒れや脱毛の原因になります。
■アミノ酸・脂肪酸・糖の合成を助ける
体内の4種類の酵素を活性化し、たんぱく質、脂質、炭水化物の材料である、アミノ酸、脂肪酸、糖の合成を助けます。
■エネルギー産生を助ける
酵素を活性化することで、エネルギー産生にもかかわっています。
欠乏症・過剰症は?
■ビオチンの欠乏症
ビオチンの欠乏症は、湿疹などの皮膚炎、結膜炎、舌炎、知覚過敏や脱毛、白髪の増加などがあります。そのほか無気力、疲労感、憂うつ、蒼白、吐き気、運動失調、筋肉痛、けいれん、緊張低下などが見られます。
ビオチンは同じものばかりを食べ続けるなど極端な偏食をすることで、欠乏症になる場合があります。また、抗生物質を多用したり、長期間の下痢などで腸内細菌のバランスが崩れると、体内でのビオチン産生量が少なくなり、欠乏する場合もあります。
乳児の場合は、消化管の機能が十分に発達していないため、ビオチンの吸収や体内での産生量が少なくなり、不足する場合もあります。ビオチンは添加物として指定されていますが、保健機能食品 [※2]に限られていて、乳児用調整粉乳への添加が認められていないため、病気で治療用調整粉乳のみから栄養を摂っている子供の場合はビオチン欠乏症が心配されています。
■ビオチンの過剰症
ビオチンを効率的に摂取するためには、ビオチンと同時にビタミンB1、ビタミンB2、葉酸、パントテン酸などの、ほかのビタミンB群を一緒に摂るとよいといわれています。
ビオチンを多量に摂った場合でも、水溶性のため尿中に排泄されるので、過剰症はありません。
ビオチンの摂取の基準量は、日本人の食事摂取基準 (2010年度版)において、十分な科学的根拠がないため目安量を示しています。目安量は表のとおりです。
ビオチンの効果
■糖の代謝を助ける効果
ビオチンは、補酵素として糖の代謝に関わっています。
三大栄養素の一つである炭水化物 (糖質)は、体内で消化されてブドウ糖にまで分解されると、小腸から吸収されます。ブドウ糖は、血液によって全身の細胞に運ばれ、体を動かすエネルギーのもととして使われます。糖を吸収し、エネルギーに変換することを糖代謝といいます。特に脳や神経組織、赤血球などはブドウ糖だけをエネルギー源として利用しているため、糖の代謝はとても重要です。
ブドウ糖を燃やしてエネルギーをつくり出す過程では、燃えカスとして乳酸が発生します。乳酸が溜まると筋肉痛や疲労の原因となります。そこで体内では、乳酸を化学工場である肝臓に運び、乳酸から再びブドウ糖を作り出してリサイクルしています。このリサイクルの過程では、まず乳酸がピルビン酸に変えられ、さらに酵素の働きによってオキサロ酢酸に変化し、ブドウ糖へとつくり変えています。このリサイクルのことを「糖新生」といいます。
ビオチンは、ピルビン酸がオキサロ酢酸へと変えられるときに働く酵素「カルボキシラーゼ」を助ける補酵素として働き、糖の代謝を助けています。
また、ブドウ糖は体内で乳酸からだけでなく、アミノ酸からもつくられており、ビオチンはこの過程でも補酵素として働いています。ビオチンは糖の代謝に関わり血糖値 [※3]を調節することから、高血糖を改善する作用も報告されています。【5】【8】
■皮膚や粘膜の健康維持を助ける効果
ビオチンが補酵素として働きを助けている酵素のカルボキシラーゼは、アミノ酸の代謝にも関わっています。
アミノ酸は、体内で食事から摂った肉や魚などのたんぱく質が消化、分解を受けて作られます。そして糖や脂肪とともにエネルギーをつくり出すもととなったり、体のそれぞれの部分で、コラーゲンなどのたんぱく質を合成するときの材料となります。アミノ酸が集まってたんぱく質を合成することで、筋肉や皮膚、粘膜、髪の毛などがつくられているのです。
そのためビオチン不足によって酵素カルボキシラーゼの働きが悪くなり、アミノ酸からたんぱく質をスムーズにつくることができなくなると、皮膚や粘膜、髪の毛などをうまくつくることができず、肌荒れや脱毛が起こったり、白髪が増えることがあります。
また、ビオチンは亜鉛と協力して核酸 (DNAやRNA)の合成に対しても補酵素として働きかけ、たんぱく質の合成を助けています。皮膚の細胞が規則正しく生まれ変わり、健康な状態を保つためにも、ビオチンは欠かせない栄養素なのです。
■皮膚炎を改善する効果
ビオチンは、皮膚の炎症やかゆみの原因となるヒスタミンという物質の産生を抑える働きがあります。詳しいメカニズムなどは明らかになっていませんが、この働きにより皮膚のトラブルの改善が期待され、アトピー性皮膚炎の治療にも有効だと考えられています。
アトピー性皮膚炎とは、強いかゆみや湿疹が主な症状で、良くなったり悪くなったりを繰り返す病気です。原因は様々で、ダニ、ハウスダスト [※4]、食べ物などのアレルギーや、皮膚の性質が大きく関係しています。
アトピー性皮膚炎では、アレルギーが原因の場合体内にアレルゲン [※5]が入ると、ヒスチジンという物質からできるヒスタミンが体内に放出されることによってかゆみや皮膚の炎症が起こります。
ビオチンはこのヒスチジンやヒスタミンの産生を抑え、尿から排泄する作用があるため、アトピー性皮膚炎の治療薬としても使われます。
また、アトピー性皮膚炎の患者では、血液中のビオチン濃度が半分以下に下がっているという報告や、ビオチンの大量投与によってアトピーの改善がみられる場合があるようです。
ヒスタミンはアトピーだけでなく、様々なアレルギーや花粉症などの原因にもなっているため、ビオチンを摂ることで効果があると期待されています。
ビオチンはどのぐらい摂取すればよいか?
効率よく摂るには
ほかのビタミンB群と組み合わせる
ビタミンB群は相互に補い合って働くため、ほかのビタミンB群の多い食品とともに摂ったほうが効果的です。
■ビオチンの摂取を阻害する食物
生卵白(アビジン)、抗生物質(特にサルファ剤)、完全非経口栄養食
※卵白中のアビジンが消化管でビオチンと結合し、ビオチンの吸収が阻害される可能性。(一日あたり生卵10個以上)
※抗生物質は腸内細菌を殺すため、ビオチンの生産量が少なくなる
ビオチンを含む主な食品
レバー 大豆 穀類 卵黄 ローヤルゼリー いわし くるみ ピーナッツ 牛乳